2009年03月09日
因島の人
本日は事情により,ぽっかり1日空いてしまいましたので
前々からネタにしようと思っていた実話を書きます。
あらかじめ申し上げておきますが,
塗装とはぜんぜん関係ありませんし,長いです。
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昨年,12月7日(日),夜11時頃のことです。
当店事務所のインターホンを鳴らして
「保土ヶ谷ってどっちですか?」と尋ねてきた人がいました。
その時,事務所には,はるばる神奈川県の当店に
応援に来てくれていた岡山県倉敷市の塗装店
「アートペイント」の青井さんが宿泊していましたが,
青井さんは保土ヶ谷がどこかわからないので
呼ばれた私が2階から降りてゆきました。
質問者は20歳くらいの地味な女性で,
柔道選手のような感じ,といったら
何となくイメージしていただけると思います。
当店所在地である横浜市港北区日吉からだと,保土ヶ谷まで
車でも電車でも30分以上掛かりますから,私は,
「歩いて行ける距離じゃないですよ。日吉の駅だったらあっちです。」
と,説明しようとしました。
すると,驚くことに,その女性は
「お金が無いので歩いていくしかないんです」
というのでした。
で,聞いた話をまとめると,こう ↓ です。
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来春,都内の介護士の学校に入るので,部屋探しの下見のため
因島から上京してきた。
目的を果たして,蒲田の駅で時刻表を見ていたらバッグを盗まれてしまった。
警察に被害届を出したが,たぶん戻ってこないでしょう,とのこと。
母子家庭で,長距離トラックの運転手をしている母親は
数ヶ月に一度しか戻ってこないので,連絡が取れない。
因島は携帯電話が圏外になるので自分は持っていない。
友人の電話番号を書いた手帳は盗まれたバッグの中にある。
なので,こちらにいる友人の携帯番号を教えてもらうべく,
因島の友人の自宅の電話番号を調べてもらって友人の母と通話した。
が,何かの詐欺だと疑われて全く信用されず,電話を切られてしまった。
警察では,帰郷の費用は貸せないし,未成年ではないので保護も出来ない,
と言われ,仕方がないので,友人が住んでいるアパートまで数時間歩いた。
(東京都大田区蒲田から神奈川県川崎市高津区まで)
しかし,アパートに着くと,友人は転居しており,会えなかった。
別の友人が保土ヶ谷にいるので,これからそこに行ってみようと思う。
でも,保土ヶ谷の友人のところには以前に1度行ったきりで,住所は不明。
中学校から車で5分くらいだった,という記憶があるだけ。
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彼女は,ただ質問に淡々と答えるばかりで,
困り果て途方に暮れているような深刻な雰囲気ではありませんでした。
本当に困ったとき,人はこんなふうにボーッとしてしまうのかもしれない,
あるいは,とても疲れているから淡々としているように見えるだけなのか。
これが事実であると想定した場合,
もし,私が日吉から保土ヶ谷までの電車賃を貸したとしても,
彼女が友人に会えるかどうかはわかりません。
そもそも,その程度の記憶でアパートが見つけられるとも思えません。
今日中に帰郷の途に就く方法があるか尋ねると
「0時過ぎに横浜駅を出発する尾道行きの夜行バスに乗れば
明日のお昼前には因島まで帰れます」との返答。
その費用を尋ねると1万8千円あれば足りるそうです。
でも,彼女はお金を貸して欲しいとは一言も言いませんでした。
ここまで,青井さんと私の二人で話を聞いていましたが,
この女性が本当に困っている人なのか
それとも,作り話でお金を騙し取ろうとしている詐欺師なのか,
二人とも確証が持てませんでした。
そこで,私よりは人を見る目があり,逆境に強いカミさんを呼びました。
(この時点ですでに23時半を過ぎていました)
以上,一通り彼女から聞いたことをカミさんに伝えると
これから友人を訪ねることを考えるよりも帰った方がいい,と結論。
私も同意見です。
私は意を決して,1万円札2枚と私の名刺を渡しました。
彼女の氏名や住所は,聞きませんでした。
もし,彼女が嘘をついているとしたら聞いても意味がないからです。
彼女は特にうれしそうな表情もせず,感謝している風もなく,
やはり,淡々とそれを受け取りました。
カミさんは大通りまで彼女に付き添ってから戻ってきて,
青井さんとカミさんと私の3人で,どう思う?と少し話しました。
話が出来すぎているような気はするが,説明には破綻が見えないし,
人を騙すような人間とは思えなかった。
3人の一致した意見でした。
青井さんが住んでいる岡山県倉敷市と因島は結構近いそうで
彼女にはその地方の訛りがある,ということでした。
ならば,まあ,嘘じゃないだろう,と思うことにしました。
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その後,3ヶ月経ちましたが,彼女から連絡はありません。
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下記のページは,この“事件”の数日後に,
「置き引き 詐欺」というようなキーワードで検索して見つけました。
http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2007/0812/142240.htm?g=01
そっくりとは言わないまでも,似た話が載っていて,
たくさんの方がそれぞれにレスしている中,
> 信じて傷つくか、信じなくて傷つくか。
という見出しをみて,「ああ,そうだよな」と思いました。
もしウソじゃなかったとき,何もしなかった自分が嫌だ,ということです。
でもね,2万円,返してくれえー(爆)